へんこものがたり

事業構想図

設立趣意

伊賀の地には40年以上も前から、有機農業に取り組んできたひとたちがいます。
化成肥料や化学合成農薬を使用せず、堆肥づくり・土づくりに励み、単なる利益追求や自分が楽をするためでなく、環境のこと、社会のこと、食べる人の健康のこと、そして子供達の未来に想いを馳せる。取組は十人十色。個性的で熱い想いを持った「へんこ」=「変わり者」たち。
パイオニアたちの後を追う若い世代も徐々に増え、地域に有機農業の取組が根付くなか、活動を様々な面からバックアップし、支え合う仕組みが求められるようになってきました。平成23年にはバラバラに活動していた農家たちが集まって、消費者や流通・教育・医療・行政関係者らとも連携し、伊賀有機農業推進協議会「伊有協」を立ち上げ、国の助成を受けて、技術向上、販売力強化、人材育成などの取組をすすめてきました。そして、この伊有協の取組を土台に、生産者、加工・流通業者、消費者などの当事者が出資する形で、生産物の営業・販売を行う組織が構想されてきました。

有機農産物の販売形態は、これまで、「産消連携」という「顔の見える関係」を基盤にした契約販売方式が中心でした。そこでは単なる商品のやり取りに留まらず、つくり手と受け手、生産者と消費者(あるいは八百屋)が、よりよい社会や自然環境の保全を目指す有機農業の役割や意義を認め、互いを支え合う仕組みを築いてきたのです。
しかし、有機JAS認証導入に伴う栽培履歴の確認作業の簡素化、流通組織の合併・大規模化の流れのなかで、つくり手と受け手の距離は遠くなり、関係は徐々に希薄化しています。特定の生産者、あるいは特定の地域のファンとなって産品を求めるというより、「有機農産物」という「商品」として認知される傾向が強まっています。

こうした傾向と相まって、大手企業による有機・特栽農産物を扱う大手宅配業者の買収や、全国のヤル気のある農家を囲い込む系列農場化の動きも進んでおり、数年のうちに有機農産物の世界で流通の再編が大きく進むことが予想されます。「慣行栽培」と言われる分野でも、安全安心や環境への配慮が十分になされるようになり、「有機」と「慣行」という単純な形での差別化は次第に難しくなってきています。

農業界全体でみると、貿易自由化の波に加え、企業参入や海外からの技術導入のケースが増え、産地のさらなる大規模化・寡占化が進む傾向が強まっています。政策的にも「強い農業」を支持する傾向がこれまで以上にはっきり打ち出され、地域社会を支えてきた農業の産業構造そのものが変貌しつつあります。自治体の税収・交付税等も大きく減る見通しのなか、地域社会・コミュニティを支えていくためには、対外的なブランド価値創出という「攻め」の部分と、医療・福祉・文化・教育などの「守り」の部分を併せ持ち、融合させるような、新たなビジネスモデルが求められています。

伊賀地域で有機農業に取り組む生産者たちが、こうした時代状況に適応していくためには、生産者同士が連携して知恵を出し合い、それぞれの強みを生かして、独自の強固なブランドを立ち上げていく必要があります。ここでせっかくの「へんこ」のキャラクターを生かさない手はありません。ひとりひとりの活動を丁寧に拾い上げ、伊賀の取組は何がどのように優れていて、どんな価値を世に伝えることができるのか、しっかり前面に打ち出していくことが大切です。時代の流れに押し流されるのではなく、
むしろ変化をチャンスととらえ、流通再編に際してリーダーシップをとれるような「ひと」・「組織」が求められます。
各々が人生かけて学びとってきたものを信じ、こつこつ歩き、あるいは走り続ける。はた迷惑なほど熱い想い、枠に収まらない考え、ごつごつしたもの、規格化された商品になりきれない<何か>が、イノベーションを起こし、未来をつくりだしていくのです。
伊賀の地に生息する、ひと癖、ふた癖ある「へんこ」たちが、社会に一石を投じるため、ここに「株式会社へんこ」を設立します。